第8回宇宙建築賞優秀作品発表
第8回も非常にレベルの高い応募作品が集まり、心より感謝申し上げます。
今回のテーマは、「スペースポート」でした。
2021年は、ジェフ・ベゾス氏、イーロン・マスク氏、前澤友作氏らが、
次々と宇宙へと旅立った記念すべき年となりました。
山崎直子さんらが目指す、アジア初のスペースポート建設も、間近に
迫っているようにも思われます。
今回の応募者の皆さんから寄せられた様々なスペースポートのアイデア、
山崎直子さんらの総評とあわせ、是非ご覧ください。
第8回宇宙建築賞総評
スペースポートという地球と宇宙をつなぐテーマに対し、近未来から遠い将来の構想まで、とても幅広い作品の数々を応募下さり、どうも有り難うございました。こういうスペースポートが実現したらいいなと胸躍らせながら、審査を務めさせて頂きました。具体的な立地に根ざした構想、海から空中、宇宙空間まで様々な場を活用した構想、ゴミ処理を兼ねた循環型の構想、宇宙放射線をミドリムシで防御する構想、将来的に多様な重力文化を受け入れる構想など、いずれも広い視点でスペースポートを考えてくれていたと思います。
実際、日本でも世界でもスペースポートの整備が進んできていますが、いずれは宇宙空間や他の天体にもポートが出来てきて、まさに地球と宇宙の架け橋になるでしょう。そうしたスペースポートはそれ単独で存在するものではなく、地域の暮らしと環境との調和の上に成り立つということを、今回の宇宙建築賞を通じて改めて感じました。スペースポートを考え、実現していくことで、宇宙の中の地球、宇宙の中の私たちの暮らしを見つめ直すことに繋がっていくことを期待しております。
宇宙飛行士 山崎直子 様
審査結果
1位:金メダル(1作品)
© 2016 TNL
スペースポートに求められる機能は、なんだろうか。
もちろん、宇宙に向かう往還機を打ち上げ、あるいは離陸させ、宇宙からの往還機を安全に迎える、それは大前提として必要な機能であろう。
しかし、将来世界中にスペースポートが作られるようになり、「スペースポートを選ぶ時代」が訪れたとき、その「選ばれるスペースポート」になるために、どのような機能が必要なのか。
スペースポートは(今は)技術の最先端を表すものであり、往々にしてその提案は技術的な、「ムキムキの」発想に向かいがちである。これに対して、その逆の方向性として、自然・地域と一体化したスペースポートを提案したのが、この「海を舞い、月を耕す」である。
テレイグジスタンスやBeyond 5Gといった技術の衣もまといつつ、その核心となるコンセプトが「海から宇宙につながる」という、ややもするとノスタルジックささえ感じさせるコンセプトであることに惹かれた。
立地をカナダのファンディ湾(干満差が世界一、15mにも及ぶ)とすることで、その自然の特徴を存分に活かした設計とすると共に、潮の満ち引きが月によって起きることを上手に活かし、月との関連を自然に感じさせる施設として設計するという点は極めて秀逸な発想といえるだろう。
提案されている施設としては実際のところそれほど多様性はなく、また度肝を抜かれるようなものはない。必要最小限、シンプルである。デザインもどちらかというとオーソドックスといってよい。しかしそのシンプルさの中に、自然、海、そして月と結びつくというコンセプトが散りばめられ、このスペースポートを唯一無二のものとして打ち出していく力強さが感じられるのである。
もちろん、最先端技術をもう少しコンセプトの中で消化して欲しい、あるいはそもそもファンディ湾という立地がスペースポートとして最適であるのかどうかといった検討を今後さらに行い、この提案をブラッシュアップしていくことは求めたい。しかしその中でも、宇宙という最先端の世界に飛び出すからこそ、自然や月と結びついているというこの提案のアドバンテージは、大いに活きてくると思われる。
これからスペースポートが私たちにとって空港のように当たり前の存在となる時代だからこそ、人間と自然とのつながりを改めて意識させるようなスペースポートが求められる、私はこの提案を精査しながら、その思いを強くした。
2位:銀メダル(1作品)
上記の入賞作品データと審査員の方々の講評も
近日中に公開予定です。
優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。
作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。
今回は非常に完成度が高いだけでなく、独創性にあふれた作品がとても多いように感じました。
今回の宇宙建築賞が今後の宇宙建築の新たな着想につながることを願っております。
最後に、第6回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、
そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。
この度は第6回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!
© 2016 TNL
本作品は、月周回軌道上に建設されるスペースポートの提案とされており、各国の人々の思想や生活様式、あるいは社会的背景に基づいて空間を変化させることを目的としたユニークな提案となっている。
空間を変化させる構造として、展開構造を用い、その展開シャフトの長さを変えることで、外側に設置されたインフレータブル構造の膜を伸び縮みさせ、円周方向の径の大きさを変えることで、重力が異なる居住空間を構成している。ここで提案している構造物をうまく組み合わせ、文化に合わせて、空間を変化させる方法が魅力的な提案だと感じている。
良く宇宙建築の学問において問いかけられる「そのような難しい構造をリアルに造れるのか」という疑問に対し、建設ステップ毎に分け、具体的な建設方法の提案や、伸展機構や素材等の細かいディテールまで綿密に考えられており、作者の宇宙建築に対しての研究心が見受けられた。
又、ソフトな面での建築的意義のみならず、ハードな面のメリットとして、現在計画されているアルテミス計画に合わせ、地球、月、火星の重力に合わせてトレーニングを行うための施設としても活用できる事が挙げられている。活用先が具体的に示されている点においても好印象を持てる。
面白い構造、それを造る具体的な方法、その場所で造る利点、その場所で生まれる文化、建築のコンペで求められるポイントを的確にとらえている作品だと感じた。
3位:銅メダル(1作品)
荒木慶一
名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻
本作品は,地上高度30kmの位置に浮遊するスペースポートの提案である.空気抵抗や重力が小さくなる位置まで物資をクライマーで持ち上げた後にロケットエンジンで発射することで,宇宙輸送でボトルネックとなっている輸送コストを飛躍的に低減するのが本作品のねらいである.
直径700mの円盤状のスペースポートは多数のバルーンで支持され,複数の大型プロペラで位置制御を行う.有人プレーンと資材運搬用ロケットを対象としており,水平方向に有人プレーンが発射するプラットフォームを,鉛直方向に資材運搬用ロケットが発射するプラットフォームを備えている.有人プレーンはロケットエンジンで高度100kmまで上昇し,宇宙旅行を楽しんだ後,各国の空港に向かう.資材運搬用ロケットは,ロケットエンジンでスカイフックに到達した後,高軌道から月に投射される.
この作品は,宇宙輸送の最大のボトルネックである輸送コストの課題に正面から取り組み,単にストーリーのみでなく,物理的な裏付けの概算を数値で示しながら,夢と希望にあふれる構想を美しい絵と共に提示している.様々な分野で「破壊的革新」を名乗る構想は数多く提案されているが,本作品はその名に恥じない真に革新的な構想であり,将来的にどのような形で発展し,実現されるか注意深く見守りたい.
入賞(4作品)
宇宙が盛んに利用されるようになってきて、LEOから月や火星などの深宇宙へと拓かれつつある。
スペースポートをテーマとした第8回宇宙建築賞審査会ではそんな未来の宇宙活動に向けられた夢やアイディアや情熱を共有ことができた。どの作品も本来のスペースポートの離発着場、経路、拠点以上の意味を持つ希望で満たされた場として輝いている。
入選作品には『循環型アースポート』、『スペースパーク』、『PortC』、『和』が選ばれた。
© 2016 TNL
「SPACE PARK」
No06 大和田卓、Zhang Yuanyuan、大場卓
一般的にスペースポート成立には安全、技術、政策、環境、事業の各要件が必要となってくるが、いずれにしても地域の理解が大前提となる。『スペースパーク』は東に海が広がる日本に建設される地域との調和をベースとしたプロトタイプである。射場ポートの分散配置でリスク分散したシェア型スペースポートで、棚田調のランドスケープはどこか懐かしい雰囲気を醸し出している。宇宙産業と地域とのつながりを生むために田植え体験、グランピング、シアターなど地域の生活と寄り添う多様な場として、また、雇用を生む場としてなどパーク自体が経済を生むという事業性が重視されている。
大貫美鈴
宇宙ビジネスコンサルタント
大貫美鈴
宇宙ビジネスコンサルタント
現在、米国のアルテミス計画のもと、月を目指した取り組みがアメリカのみならず世界各国で進められ、月に社会ができる未来に一歩一歩向かっている。『PortC』は月のクレーター内に建設される円環状の宇宙港であり、約20人の入植期から約2500人の完成期に向けた月社会を支える拠点インフラである。月のランドスケープを壊さないためにクレーター内に建設され、クレーター内から上を見上げるという視点を主役にしたユニークな提案である。円環状の展望フロアからは射場からの離発着を見ることができ、視線にいつもある宇宙とのつながりを生み出し、そこには人類としての一体感も生まれる。
大貫美鈴
宇宙ビジネスコンサルタント
宇宙開発の国際協力が進み、新たなグローバル市場を獲得するなど、宇宙開発の国際化、多極化が進んで久しいが、その中にあってお国柄や文化を継承していくことはこの上ない喜び、価値であることは認識されていることであろう。『和』は、宇宙エレベーターの途中、見かけの重力加速度が7.53 m/s²のGEOよりも低い軌道に設けられる水引の形をモチーフとしたスペースポートの提案である。バイオマスシールドで宇宙放射線遮蔽や、宇宙デブリ対策が施された建設で、研究・実験・製造などができる施設であるとともに、宇宙露天風呂やみやげもの屋などもあり、広大な宇宙の中にあって「なごみ」が享受できる場となっており、興味深い施設となっている。
CO2の排出や、ごみ問題は、地球という人類共有の財産であるグローバルコモンズを脅かす課題として、持続可能な地球での生活をする上で喫緊の命題となっている。宇宙活動を持続可能にするためには帰る場所としての健全な地球はなくてはならず、『循環型アースポート』は地球とともに歩むスペースポートとして提案されている。インドネシアに建設される『循環型アースポート』は、地球の課題となっているごみ処理・資源化やCO2排出削減とデュアルユースすることでバランスを取りながら環境改善するという現実味のある課題解決型のアイディアが冴えている。
全体講評
宇宙建築賞の審査会には、今回、初めて参加いたしましたが、応募作品の発想の豊かさに驚かされました。技術的には今すぐ実現させるのは困難であったり、あるいはそもそも実現不可能ではないかというものもありましたが、そのような技術的なことよりも、斬新な発想力が非常にすばらしいと感じました。少なくても、SFの世界なら十分に成立するものになっていると思います。
そもそも、人類の宇宙への進出というのは、まだその扉が開かれたばかりです。これまで、一応月までは人類が行きましたが、定常的に人類がいるのは上空約400キロメートルの国際宇宙ステーションまでです。まだ、地球すれすれのところにしか人類はいないわけです。
今後、月面基地や月の周りの宇宙ステーションができて、さらに太陽系空間を有人・無人の宇宙船が頻繁に行き交うようになったときに、どのような宇宙建築物ができるのか、また宇宙旅行というものがより身近になったときに、どのようなところから宇宙に出かけることになるのか、既存のものにとらわれない発想力が重要になってくると思います。今回の応募作品のような発想力を今後も大切にして、さらに伸ばしていくことができるとよいと思います。
JAXA はやぶさ2 ミッションマネージャー
吉川真 様
金銀銅各1,入賞4
最後に、第8回宇宙建築賞に関わっていただいた全ての皆様に感謝申し上げます。
この度は第8回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!