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第11回宇宙建築賞優秀作品発表

第11回もたくさんの応募作品が集まりました。心より感謝申し上げます。

今回のテーマは、「アルテミス、そしてその先へ」でした。今回の応募者の皆さんから寄せられた様々なアイデアが

実現する日を期待しています。




今回の応募者の皆さんから寄せられた様々なアイデア、

山崎直子さんらの総評とあわせ、是非ご覧ください。

第11回宇宙建築賞総評

 

 第11回宇宙建築賞のご開催おめでとうございます。今回のテーマは、「アルテミス、そしてその先へ」。アルテミス計画は、米国NASAを中心に、国際協力で”Moon to Mars”を目指して進められていますが、まだ不確定要素も多く、その最終形態や、その先に目指すものが共通認識には至っていません。今回、皆さんが応募下さった作品は、それぞれが水、光、空間、重力、輸送などの様々な点に着眼され、SFのような広い空想の世界と、現実の宇宙探査計画の狭間を埋めてくれています。私たちが宇宙時代に目指すべきビジョンに示唆を与えてくれていることを心強く思います。

 私は学生時代には工学部で学んでいたのですが、卒業論文では宇宙での燃料ステーションと軌道輸送機を、卒業設計では宇宙ホテルを題材にしました。当時は夢物語かなと思いながら研究していましたが、あれから約30年が経ち、いずれも現実の計画が動き出そうとしており、時代の進化を感慨深く思います。これからは、構想から実現までのサイクルがもっと短くなるでしょう。皆さんが描いた作品のビジョンが、近い将来に実現していくことを楽しみにしています。そして、応募くださった皆さまが、今回の挑戦を通じて前途を切り拓かれることを心より応援しております。

 

宇宙飛行士 山崎直子 様 

 

 

 

​審査結果

1位:金メダル(1作品)

© 2025 TNL

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蝿取物語

鈴木悠介・谷村良美

講評: 審査委員長 ヨコミゾマコト

建築家/東京芸術大学美術学部建築科

 第11回宇宙建築賞、今年の課題は「アルテミス、そしてその先へ」です。まるで映画か小説のタイトルのように聞こえます。その言葉に、壮大なストーリー性もしくは感動的なドラマ性を感じた方は、私を含めて応募された皆様のなかにもいらっしゃるのでは? 

 今回初めての試みと伺いましたが、AとB、2つのカテゴリーが設定されました。比較的身近な将来に起こり得るかもしれない状況を想定したA。さらなる遠い未来の未知なる世界を夢想するかのようなB。どちらも興味深いのですが、Aは具体的かつ技術的な提案、Bは概念的なイメージや認識論の提案になるのだろうか、もし自分が応募するならBかな、などと考えながら審査に及びました。

 見事金メダルを取られた鈴木悠介さんと谷村良美さんの「蝿取物語」は、テーマAへの提案です。スペースデブリを死んだ蝿に例えるユーモアに加え、惑星間移動の目的地の拡がりに合わせてラッパ状の展開構造物が段階的に地球から離れていき最終的に消滅するまでを提示され、壮大な時間の流れのなかに自らの提案を位置付けています。まさに期待通り、あるいはそれ以上の提案でした。宇宙エレベーターの管路を利用して展開する構造物なので致し方ないというプレゼンテーションでの説明もありましたが、管路をデブリとの衝突から守るためにも、また良好な通信品質確保のためにも、管路と蝿取フィルターとの前後の位置関係が本当は逆であって欲しい。もし逆にしようとしたら、もう一段階先まで検討を進め、さらなる工夫や発想が必要となるでしょう。悩み苦しむこともあるはずです。でもそれが設計の醍醐味かもしれません。

2位:銀メダル(1作品)

​上記の入賞作品データと審査員の方々の講評も

近日中に公開予定です。

 

 

優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。

作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。

今回は非常に完成度が高いだけでなく、独創性にあふれた作品がとても多いように感じました。

今回の宇宙建築賞が今後の宇宙建築の新たな着想につながることを願っております。


最後に、第6回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、

そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。

この度は第6回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

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「月面ROPE-WAY 〜時代を結び、未来へ繋げる〜」

 早川明日香、待田凌、古田摩実

講評: 審査員 大貫美鈴

宇宙ビジネスコンサルタント

 「月面 ROPE-WAY」は“モビリティ×建築”が月面居住の可能性を拡げているしなやかで柔軟性のある作品である。

 先ずロープが万能であったことにあらためて気づかされる。6分の1Gという月面の重力環境下でロープはさまざまに能力を発揮する。ロープウェイとはロープを使って人や物を空中で移動させる輸送手段であり、人類は長い歴史の中で活用してきた。2つのゴンドラが交互に往復する交走式や、ゴンドラが循環する循環式があるが、「月面ROPE-WAY」では縦方向には交走式、横方向には循環式と両方とも利用されており、段階的に規模を拡張する月面拠点を自在に変化させている。引上げる、引下げるなどの縦孔を昇降するエレベーターの役割から、吊るす、繋げるなどゴンドラを自在に動かすことにロープウェイを最大限に活用しており、展開型アームを使うなど工法や運用における工夫も施されている。

 縦孔に居住して地産地消で水資源も利用しながら基地を拡張していく基本ユニットがゴンドラモジュールである。レゴリスに含有されている金属からつくられたゴンドラモジュールの接続部は蛇腹構造でありファスナーで気密性が保たれており、移動したり結合したりと多様な用途や拡張していく変化に対応でき、居住、生命維持装置、物資回収、実験など多目的に効率的に活用されている。また、ゴンドラモジュールは縦孔の外でも資源採掘場やロケットの離発着場への移動や物資の運搬など横展開に活用されている。月面レゴリスで作ったコンクリートの固定施設は岩がごろごろしている物理的環境を建築に取り入れてC字型になっており、スポーツや食、景色を楽しむ観光のための機能も保有する。

 「月面ROPE-WAY」はロープウェイが縦横無尽にインフラの中核となることによって月面という環境的な制限を建築に積極的に取り込んでいるユニークな着想が冴えている。ロープウェイで結ばれて段階的に拡張して未来の月面モビリティ社会に繋がっている。

3位:銅メダル(1作品)

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「黎影のパビリオン」

牧野元汰、川村吉平、田永愛夏

講評: 審査員 島明日香

JAXA 研究開発部門

 普段、「ミニマムなリソースで宇宙船内の宇宙飛行士をいかに生存させるか」という非常に狭い視点で有人宇宙開発を見ている者からすると、応募作品はそのどれもが、夢とゆとりに満ちた未来の宇宙開発を独創的に描き出していたように思われた。中でも本作品は「運動・スポーツ」から宇宙建築を考えるという非常にユニークな提案で、部分重力をうまく活用した新しいスポーツが月面で花開く将来を期待させる、大変ワクワクする内容であった。部分重力環境下での生活がどのようなものになるかは未知数であるが、筋力や骨の維持が地球上よりもさらに重要度を増すことは想像に難くない。本作品の施設は、それを現在の宇宙飛行士がISSで行うようなものよりもさらに楽しめるような構想になっていると感じた。現地での上下移動が全身運動となるようなギミックも面白い。環境制御については、存在量の議論もある月の氷が前提のため技術的な弱さがある一方、緑を活用する点は大規模建築を可能とする土地や部分重力を有する月ならではの発想ではないだろうか。

 生存のための技術開発の集大成ともいえる「アルテミス計画」を経た先に、人々が余暇を楽しみながら月で新しいスポーツ文化を築くまでに生活圏を広げる未来があることを、願ってやまない。

カテゴリーA賞(1作品)

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「月面銭湯は闇に灯る」

高橋賢生、畑亮真

 日本人にとって風呂は生活に欠かせないものである。大地震後の過酷な状況でも、自衛隊などにより風呂が設置され、人々が元気を取り戻す映像をよく見かける。月面基地という過酷な現場においても、そこで生活する人のQOLを高めるのに銭湯という日常のぬくもりを導入する試みは効果的である。一方、月面銭湯という大胆な提案には、月面での水資源の利用可能性や技術的な完成度の面で議論の余地が多く残されている。そのため、この作品は審査員の中でも評価が別れる結果となった。しかし、月面に生活する人々のQOL向上に向けて未知の可能性への挑戦を示している点で、この作品を高く評価したい。将来的な月面銭湯の実現に向け、さらなる検討を期待したい。

講評: 審査員 荒木慶一

京都大学大学院工学研究科建築学専攻

カテゴリーB賞(1作品)

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「宙と馴る」

桂田優飛

 まず審査について。今回もいつもの通り審査に関しては非常に多くの議論が行われ、単に点数だけではない、様々な方向からの議論となっていた。審査員がいつも「苦しむ」 ことが、宇宙建築の将来につながっていると信じたい。さて、今回の多数の参加作品の中で、私が異彩を放っていると感じたのが、この「宙と馴る」であった。アルテミス計画が進行し、宇宙開発や宇宙旅行が一般化する時代において、静止軌道上での人間の長期滞在に向けた建築を提案したものである。今回私が驚いたのは、使っている素材が一般的な宇宙開発の素材ではなかったことである。とりわけ、布を使うという発想には驚かされた。実験や開発、居住の区画を布で区切り、 かつラックを使って収納力や拡張性を確保するという、いわば「2面での発想」は素晴らしいと感じた。 地上… 私たちの生活でも、同じ空間を巧みな収納やカーテンなどで仕切ることにより、 異なった用途として使うことができる。宇宙という限られた空間において、このような 地上の発想を実践していくことは重要である。布を使うことで、金属などの壁ではできない、人をその向こうに感じるという感覚が生まれる。それによって宇宙空間においても人の温かみを感じられる。もちろん、布という素材が持つ人間的な感覚や、光や風を緩やかに通す性質は、とかく無機質になりがちな長期宇宙滞在において人間心理に好ましい効果を与えると考えられる。全体的な設計において、環境・身体・心理の3要素を考慮に入れた設計となっていることにも好感を持った。とりわけ、宇宙空間における心理的な要素については、まだまだわからないことも多い。その中でなるべく人間の心理に配慮した設計を組むことは重要なポイントになると考えられる。今後、この心理的な要素に対してポジティブな内容をどこまで増やせるか、また布などの素材をどうより効果的に使っていくかが、本提案をさらに進めた内容にしていく上でキーになるように思われる。将来の長期宇宙滞在を考える上で示唆に富む内容、効果的なアイディアが多数詰まっている点で、ぜひこの提案を発展させ、ポストアルテミスの 宇宙滞在に適した提案を作り上げていって欲しい。 

 今回は全19点(計40名)もの作品が提出された。私としても宇宙建築賞が多くの人たちに認知され、また登竜門としての役割を果たしていることを改めて感じた。11年目となる今年も、実力派の作品が集まったことを嬉しく思っている。と同時に、いつものこととなるが、作品を作る上で「現地の状況に思いを馳せる」ということを常に頭に入れておいて欲しいと思っている。これは宇宙建築に限らず、地球における建築でも必須となる事柄である。宇宙という、無限の可能性を広げられる場所の建築だからこそ、その環境を知り、そこに適応した、しかし自らのユニークさをアピー ルできるような建築提案を今後も期待している。 

講評: 審査員 寺薗淳也

合同会社ムーン・アンド・プラネッツ

ヨコミゾマコト特別賞(1作品)
* 審査中の議論により今回特別に設定

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「Lunar Vernacular 生命の星への礼拝堂」

宮田大樹

講評: 審査委員長 ヨコミゾマコト

建築家/東京芸術大学美術学部建築科

 宮田大樹さんの「LUNAR VERNACULAR」は、多くの提案がインフラ構築、構法やシステムなど技術面からのものであったのに対し、心の問題、文化の問題を取り上げていることに強い関心を持ちました。テーマBに正面から向かい合った提案と言えるでしょう。月面の地球直下点を計画地としたヴァナキュラリズム建築、地球からの見え方に配慮したという設定も容易に納得できます。提案パネルに記載された「地球ってどんなところだろう?」というエッセイは、月に暮す大学受験を控えた若者が書き留めたテキストを21世紀の日本語に翻訳したものです。地球上で人類が育んできた文化的多様性を自ら楽しみ、尊敬し合い、次なる文化創造に繋げるという当たり前の行動を実践できずに、行き過ぎたナショナリズムから排他的で他者を許容することなく差別を生み、争いや殺し合いを繰り返してしまう21世紀の地球人を1000年先の月で生きるその若者はどうみるのでしょうか?「アルテミス、そしてその先」の月や火星では、そのような愚かな繰り返しは起きていないでしょうか?国際協力と民間企業参画をベースとしたアルテミス合意体制は、計画完遂後も維持されているでしょうか?審査を忘れて考えさせられてしまいました。宮田さんの月面礼拝堂は、生きる喜びのための場として美しい地球の姿とともに永く在って欲しいものです。

愛媛県総合科学博物館賞(1作品)
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「ARK」

吉田多津雄

1位

 本賞は、愛媛県総合科学博物館の来館者による投票によって選定されました。

 この1位の作品は、残念ながら審査員による選定には入らなかったものの、来館者の(特に多くの子ども達からも!)人気が高かったとのことです(821票の有効投票数のうち、実に、263票を獲得)。

 多様な視点からの評価を行えればと設定された今回の展示会投票ですが、審査会とは異なった結果が出たことは、ある意味で成功であったと言えるでしょう。

 この度のご受賞、誠におめでとうございました。

投票結果

 

1位「ARK」吉田多津雄 ・・・ 愛媛県総合科学博物館賞  

   (*1位には愛媛県総合科学博物館からの賞状有) 

2位「空想世界」伊藤愛里彩 

3位「ノマド」松井謙心、三上洸太朗 

4位「168/672の林間学校」中山太陽、新島朝也、小山莉空 

5位「月面銭湯は闇に灯る」高橋賢生、畑亮真

2位「空想世界」

伊藤愛里彩

3位「ノマド」

松井謙心、三上洸太朗

4位「168/672の林間学校」

中山太陽、新島朝也、小山莉空

5位「月面銭湯は闇に灯る」

高橋賢生、畑亮真

最後に、第11回宇宙建築賞に関わっていただいた全ての皆様に感謝申し上げます。

この度は第11回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

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