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第7回宇宙建築賞優秀作品発表

おかげさまで、第7回も非常にレベルの高い応募作品が集まり、心より感謝申し上げます!

コロナ禍で、なかなか夢を語る余裕のない時代に、応募者の皆さんからたくさんの夢が詰まった作品が寄せられました。

興味深い作品群、是非ご覧ください。


さて、そんな第7回宇宙建築賞で見事入賞を果たしたのは以下の作品です。

​今回の審査委員の方々の総評と併せてご覧ください。

第7回宇宙建築賞 総評

 通常の建築設計実務では、敷地や機能などによる制約が先に存在して、そこに我々建築家が創造力を駆使してコンセプトを提案させるのが一般的である。

ところが本コンペ では敷地や機能の設定が自由でありながら、『間』というコンセプトの使用が義務付けられており、通常の実務とは逆のプロセスになった訳だが、各々の参加者が示してくれた案は、見事、将来の実務で求められる創造性を多分に駆使して実に多様な答えを提示してくれていた。
 そして敷地や機能の選択の多様性の上に、間「あわい」という言葉を、何に置換するのかが大きく分かれたことで、最終作品たちの見せたバラエティーはより強くなったと言って良いだろう。
 機能と機能の距離なのか、防疫や感染対策のための防壁か、感覚器に訴える空隙か、生死の境か、時間の隔たりか、はたまた人間個人個人の間に存在するものか。
我々、審査員は文字通り、それぞれの解釈を楽しみながら、同時に甲乙つけがたい作品を前にそれぞれの意見の「あわい」を見出しながら、最優秀と優秀を決め、そして残り4点全てを入賞とすることを満場一致で決定した。
 それというのは、作品が僅差だったということもあるが、それ以上に、この6つの作品の見せる間「あわい」こそが、今回我々が発見した人間の知識と創造性によって生み出された真のAWAIであるということ、それをシェアするためには、どの作品も欠くことができないという直感が全審査員に働いたからではないかと思う。
 今回は、オンラインのビデオミーティングでプレゼンテーションと審査会を行わさせて頂いた。私ひとりが遠く英国からの参加となったが、コンピューターの画面上に等しい大きさで並んだ参加者と審査員たちの顔々は、場所も年齢も立場も性別もかき消して一様に等しく見えた。これはオンラインが作り出す新しい間「あわい」なのではないかとも思えた瞬間であった。ご参加そしてご協力いただいたすべての方々に心より感謝申し上げたい。

 

審査委員長 鶴巻崇 様 

 

 

 

第7回講評および第8回募集のメッセージ

「間(AWAI)」をテーマとした第7回宇宙建築賞は、コロナ禍、まさに「間」をとりつつ、オンラインでの最終審査会が行われました。活動に制約がある中応募くださった皆様、審査員の皆様、運営くださった事務局の皆様に、まずは深くお礼申し上げます。

空間の「間」だけではなく、時間の「間」を考えた作品や、機能性だけでなく癒しを追求した作品、火星衛星という火星と地球の「間」を活用し、将来の有人火星探査に必要な施設を提案した作品、スペースデブリや寿命後の建築物の活用まで考えた作品など、今回も多くの示唆がありました。「間」を設計することは、その時空をどう繋ぎ、どう使っていくのか、ビジョンを創っていくことだと感じました。いずれのアイディアも実現していって欲しいものです。応募くださった皆様の益々のご活躍を応援しております。

そして、第8回のテーマは「スペースポート」が予定されています。私は有志と共に2018年に一般社団法人Space Port Japanを創立しました。日本にアジアのハブとなる「スペースポート」を創り、宇宙への扉になるとともに、地域と結びついた場にしていくことを目指しています。いずれ、「スペースポート」は宇宙にも必要になってくるでしょう。現在、国際協力で検討されている「アルテミス計画」では、月周回ステーションをつくること、定期的に月面で活動すること、現地の資源を活用していくことなどが計画されています。その先のゴールは火星。そして、もっと人類の活動領域が広がっていくかもしれません。地球にも、宇宙空間にも、宇宙船が定期的に離発着出来る「スペースポート」が必要になってくるでしょう。それらはどのような場になるのか、皆さんからの幅広い作品を楽しみにお待ちしております。
 

 

宇宙飛行士 山崎直子 様 

 

 

 
最優秀賞(1作品)

© 2016 TNL

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「宙にたゆたう」

​前川 凌、兼平 充、金佳キ

講評:鶴巻 崇

英国へザウィック・スタジオ・アソシエイト/シニアデザイナー/審査委員長

月の周回軌道上に浮かび、月面の閉鎖的な空間の生活に疲れた人々が、ストレスを発散させにやってくることを想定した施設である。施設は膜で仕切られた三層の空間からできており、卵形の与圧室以外はすべて真空である。宇宙服を来た来訪者は、薄い膜に守られた空間を自由自在に飛び跳ねまわることのできる空間となっている。一見しただけで、ヒューマンスケールの経験としての楽しさが伝わってくる作品である。プレゼンテーションのイメージから人々の歓喜の声が聞こえてきそうである。他の作品が機能的な施設を志向する中で、唯一、娯楽施設を試みた点においても強い存在感があった。通常、宇宙空間や地球外空間における建設には、安全面、生命維持の観点から硬質な材料が選択されるが、これに対して不定形な材料を提案できることで、宇宙生活者の非日常を作り出そうという発想は、将来の現実を言い当てているように感じた。

地球を回る月のそのまた周りを回るという動きを与えた点も面白い。実際に存在すれば、地球からも観察可能な商業的アイコンになることは間違いない。そうした象徴性を考えると月に掲げられた星条旗との関連を示唆したコンセプトにもうなずくことができよう。本作品を見た時に、とっさにトーマス・サラセーノというアーティストがドイツのK21シュテンデハウス博物館の吹き抜け空間に蜘蛛の巣のようなネットを張り、人が歩けるようにして作品としたのを思い出した。本作品と共通するのは、来訪者同士がお互いの行為を視認し合うことで影響し合う新たな「間」が発生することだ。見る人と見られる人という関係が入れ替わり続いていくことで、身体を使った遊びが延々と続いていく。そうした意味で、人間の個体同士の身体的な「間」というテーマにも上手に関連付けがなされた作品だった。

優秀賞(1作品)

​上記の入賞作品データと審査員の方々の講評も

近日中に公開予定です。

 

 

優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。

作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。

今回は非常に完成度が高いだけでなく、独創性にあふれた作品がとても多いように感じました。

今回の宇宙建築賞が今後の宇宙建築の新たな着想につながることを願っております。


最後に、第6回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、

そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。

この度は第6回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

© 2016 TNL

oliebollen.png

「oliebollen」

宮野 渓乃佑、浅日 栄輝、藤生 竜季、宮川 大樹、猪俣 瑞生

講評:槙原 幹十朗

​東北大学工学研究科航空宇宙工学専攻

本作品は,ケーブル,内圧ドーム,空気パックドーム,氷壁から成る宇宙建築を土星の衛星・エンケラドスに構築するものである.

今回の課題テーマに呼応して,4つの空間(森の間,氷の間,人の間,海の間)がエンケラドスの地下に配置された構成となっている.各間は,宇宙開発に必要な機能性を持ちながらも,持続性と拡張性を有している.まず,地下に構築される理由から,宇宙放射線遮断性,空気機密性,恒温度性,広大な空間が確保されることになる.初期の宇宙開発において非常に重要なファクターであり,これらが十分に満たされていることは宇宙建築として特筆に値する.次に,地下建築物でありながら,インフラやロジスティクスも十分に考慮されている.具体的には,電磁エレベータによる輸送系統,流水と太陽光による動力系統,酸素供給系統,漁業による養殖食料系統,光ファイバーによる情報伝送系統,低温を活用した食料貯蔵庫など細かい点まで設計が及んでいる.

宇宙建築は人工物の代表であるにも関わらず,自然界の蟻の地下コロニー形成に学ぶことが多いと感じさせる.そうであれば,今後のコロニー拡張は,垂直展開だけではなく水平展開も可能ではないであろうか.地下コロニーの実現性・将来性・展開性は無限大であると感じさせる.本作品の宇宙建築は,土星衛星のエンケラドスだけではなく他の惑星や衛星の宇宙建築にも適用可能であり,人類の大きな夢を駆り立てている.

入賞(4作品)

© 2016 TNL

追善の灯火.png

「追善の灯火」

島根 大輝、富田 誠矢、内藤 陽太

講評:大貫 美鈴

​米スペースフロンティアファンデーション

『追善の灯火』は、静謐な間にリ・インカーネンション(輪廻)が感じられる月面墓地の作品である。死者が生まれ変わるまでの「時の間」、地球のどこからでも眺めることができる月は死者と生者をつなぐ「距離の間」であり、太古の昔から人類にとって特別な存在であった月における弔いの提案である。生と死との間というコンセプトが強く心に響き、月面における未来の弔いにいざなわれる。

透明な納骨ドームは月面施設の中でも特別な空間。訪問者が行き交う通路は地下で繋がっている。発光した遺骨カプセルは荘厳な景観を月面に醸し出すことであろう。月面の居住区とは区別された納骨ドームエリアには月面居住者だけではなく、地球からの観光客も訪れる。ロボットやアバターが弔いに訪れることも想定される。透明なドーム内を与圧しないで、月面宇宙服を着用したり、与圧ローバーで訪れるのであれば、納骨ドーム建設の技術的なハードルを下げ、放射線対策にもなるであろう。

月面社会において死者を荼毘に付すということも関心が集まるところである。この作品では火葬場や葬儀場が設けられ、死者は地球上と同様な流れで見送られる。しかしながら、納骨ドームは、死者が星になって宇宙と一体となることができる月面ならではの特別な場所なのである。

宇宙葬は1990年代から行われている。ロケットに遺灰カプセルを搭載して、サブオービタルやオービタル打ち上げで多くの遺灰が宇宙へ還った。親族が見守る打ち上げ自体が弔いの儀式でもあり、サブオービタル打ち上げではロケット回収後に遺灰は親族のもとに返され、オービタル打ち上げでは地球を何周かして大気圏の再突入により燃え尽きる。2021年から始まる民間月面着陸機による月面輸送で月葬の時代も到来しようとしている。

© 2016 TNL

Tower_of_Quarantine.png

「Tower of Quarantine」

​水口 峰志、福田 晃平、佐藤 宏樹

講評:寺園 淳也

会津大学先端情報科学研究センター

宇宙空間における環境汚染の問題は、これから特に重要になってくる課題であろう。とりわけ、有人月探査が本格化し、その後に本格化してくるであろう有人火星探査においては、この問題を避けることはできない。

2020年にも、国際宇宙ステーションに向かう宇宙飛行士が長期間隔離を受けるというニュースがあった。また、月にはすでに地球から生物に関連したものが多く持ち込まれている。他の天体の空間を地球の生物で汚染すること、また逆に地球を他の天体の生物(いると仮定して)で汚染すること、どちらにとっても我々宇宙開発関係者が真剣に考えなければならない問題である。

この作品は、まさにこのテーマに正面から取り組んだものである。将来の有人火星飛行に備え、火星の衛星を利用した検疫所を設けようという構想である。設置する場所は火星の衛星ダイモスである。ここを火星と地球との中継点とし、検疫をはじめ、農場や資源採掘施設などを設置するという構想である。それぞれの施設はモジュール化されており、低重力という利点を利用しロボットを活用した建設を行い、タワー状の建造物として構成する。

火星は地球に環境が近い天体とされており、しかも月と異なりまだ人類が訪れていないという点で、今後「絶対に汚染してはならない」天体である。そのために欠かせない検疫という問題に正面から挑んだこの作品は、建築の観点だけでなく、有人探査に欠かせないファンクションを提案しているという点で高く評価できる。

今後、火星上空の宇宙ステーションとの性能比較や、設置箇所の比較検討(ダイモスにするか、もう1つの衛星であるフォボスにするかも含めて)、資源採掘(その場資源利用)の検討など、なすべきことは多い。しかし、なすべきことの多さは、この機能、さらにいえばこの提案への大きな期待の裏返しといえる。この構想を発展させていき、ぜひ、将来の有人惑星探査における汚染防止への大きな一歩として欲しい。

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Habitat_cochlea.png

「Habitat cochlea」

​茂木 涼介、岩井 優、蘭毅

講評:大貫 美鈴

​米スペースフロンティアファンデーション

『Habitat cochlea~人と自然環境を繋ぐ蝸牛建築~』は、火星における地表と地下との間のスパイラル構造に自然環境を創出する作品である。蝸牛を内部と外部の間に活用した蝸牛建築は構造的に安定していること、効率的で拡張可能であり、自然界の構造であることから、快適な空間を創ることにおいて私たちの日常に取り入れやすいものであろう。与圧部となっているネイチャーゾーンと居住ユニット、非与圧部でEVA宇宙服を着用して作業するファクトリーゾーンの機能的な3層構造になっている。隣り合った与圧と非与圧のスパイラルの大空間どう作るか、3Dプリンティングで建造するのかなど、宇宙における建築物としての蝸牛建築にも興味は尽きない。

非与圧と与圧のスパイラルの大空間が隣り合ってる蝸牛建築は窓を設けずに構造的に安定させつつ、与圧内部には地球の自然をふんだんに取り入れている。自然を中心としたこの作品には、火星に居住する未来においても人間は自然と共存していくという強いメッセージが表現されている。おそらく意図的に窓はなく、火星の景色を建物内に取り入れることをしないで、地球の自然を再現しているのであろう。ネイチャーゾーンの自然からあふれる香までもが漂ってくるようである。

この作品のユニークなところであり注目するべきは音についてである。宇宙で音というと国際宇宙ステーションでは、装置の音がする、日本の実験棟「きぼう」は静かだという評判など、宇宙施設における音は消音するべきものであり、音を積極的に検討する方向性はなかった。この作品では、私たちが日常感じている地球環境であるがゆえに生じる音にも着目している。火星には風が吹いているというが、蝸牛建築の施設においても風の音が聞こえてきそうである。

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SCAVENGER.png

「SCAVENGER」

​岡田 優希、幕内 稜也、吉川 春奈、打越 凜太朗

講評:小田 観世

株式会社大林組技術本部未来技術創造部

今回のテーマである「間(あわい)」という抽象的なことばに対し、参加チームすべてが真摯に「間」と向き合い、それぞれのオリジナリティのある解釈を深めていると感じました。この「SCAVENGER」という作品は、地球と宇宙の「間」にあるスペースデブリを回収・リサイクルし、建築と廃棄物の「間」に昇華するという、非常に具体性の高い提案でした。

回収したスペースデブリを3Dプリンターで再形成し新たな建築物を創造するという発想は、非常にユニークな構想ながらも、基盤となる技術はAIや3Dプリンターという最新かつ実現性の高い技術を組み合わせており、「実際に取り組んでみたい」と思わせるものでした。

また、宇宙開発における大きな課題であるスペースデブリ問題の解決につながる提案であると同時に、地産地消の技術であることも評価すべき点です。さらに、宇宙建築において問題となる建材の輸送コスト、廃棄建材の処分といった重要な課題を解決できる提案です。

さらに、建築物をつくるだけではなく寿命を迎えたその後まで考えている提案は、今回のチームでは「SCAVENGER」だけでした。建築物は「つくる」ところに目を向けがちですが、特に資源が乏しく輸送コストが莫大である宇宙建築においては「廃棄・解体・リサイクル」といった視点も非常に重要になると考えています。寿命を迎えた建築をさらに取り込んで再形成し、物質循環をさせることでそれらの問題も解決しうる可能性を感じました。

建築形状も分子構造のようなユニークな形態であり、面白いです。一見、球体同士が結合されるシンプルな形状のようにも感じましたが、それらがAIによる設計で増殖し、街ができ、庭ができ、さらには都市ができていくと、全体の形状は非常に複雑かつ有機的なものになることが想像されます。

コンセプトとして大変面白く、実現性も高い提案だと思いますので、ぜひ技術的な側面からもご検討を深めていってほしい提案でした。

優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。

作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。


最後に、第7回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、

そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。

この度は第7回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

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