第4回宇宙建築賞入賞作品発表
おかげさまで、第4回の応募作品は17作品にのぼりました!
昨年に引き続き、チームでの参加が義務付けられていたものの、
宇宙建築の認知度が毎年着実に上がっていると感じられます!!!
さて、そんな第4回宇宙建築賞で見事入賞を果たしたのは以下の作品です。
今回の審査委員の方々の講評と併せてご覧ください。
※各作品の詳細は作品一覧のページでご覧になれます。
第4回宇宙建築賞 総評
宇宙建築賞が第4回を迎えられたこと、お慶び申し上げます。審査員の皆様、応募くださった皆様、宇宙建築って何だろうと興味を持ってくださった皆様に深く感謝申し上げます。
今回のテーマは「火星居住施設」。現在の国際宇宙ステーションは、地上約400kmのところに、6人程度の宇宙飛行士が入れ替わり立ち代わり生活をしています。2000年から有人滞在が始まったので、もうかれこれ20年近く住み続けて、様々な実験をしてきています。
そしてその先には、より遠くの月有人探査、そしてゆくゆくは火星有人探査を目指そう、というのが国際的な流れです。その中では、国だけではなく、民間との協力の大切さが広く認識されてきています。
2018年2月には、米国のSpaceX社が火星へ向かうファルコン・ヘビー・ロケットの打ち上げに成功しました。ロケットにはテスラの電気自動車ロードスターが搭載され、地球を背景に真っ赤な自動車が飛んでいる写真に驚いたものです。事実はSFよりも奇なり。今はまだ、SFのように思われるかもしれない宇宙建築も、きっといつの日か現実になるものと期待しております。その先駆けである宇宙建築賞の作品に敬意を表します。
宇宙飛行士 山崎直子 様 より
第4回宇宙建築賞 総評
現在、低地球軌道の商業化が進み、月や火星などの深宇宙に向けて宇宙経済圏が拡がろうとしています。世界各国の宇宙機関が火星を目指した深宇宙探査を進めているとともに、民間による火星有人飛行や居住のためのプロジェクトが生まれてきています。米国のイーロン・マスク氏のスペースX社が火星居住を目指し、アラブ首長国連邦も国をあげて火星にミニシティを建設する「マーズ2117」の実現に向けて有人宇宙飛行計画や火星研究のための「マーズ・サイエンス・シティ」建設などを目標に、次々と計画を打ち出しています。もはや火星が人類の生活圏になることは荒唐無稽なことではなくなりつつある時代になってきたといえるでしょう。
第4回宇宙建築賞では、「火星居住施設」という課題のもとに全国から17作品が集まりました。心を奪われるパターン模様の構造物には、これまで宇宙に紋様というデザイン概念はなかったかもしれないとあらためて気づかされました。その他、高齢者による火星移住という目的意識が高い施設、火星を地球のアーカイブの場所とする地球のバックアップ施設、建築物の上下による火星の地熱を利用した温度調整を行う案など、それぞれの作品のユニークなアイディアに感嘆しました。どれも探査を超えた定住が前提になったもので、そこにはコミュニティの要素が存在し、さらに文明創造へと火星での未来が拡がっています。
最優秀作品は、地球文明のバックアップ施設のようなものでしたが、本コンペの多くの貴重なアイデア自体を、そのような火星施設にアーカイブ化したいとさえ思えました。
第4回宇宙建築賞 審査員一同
最優秀賞(1作品)
© 2016 TNL
「DIG+DEPOSIT」
五十嵐宇晴、岡本圭介、小澤巧太郎
(東京大学大学院1年)
講評:宮本 英昭
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻/審査委員長
カテナという天然の陥没構造を利用して、地下に横穴式の住居群を作成するというアイディアが提案されています。火星に居住する上で難点となるのが、厳しい放射線環境と温度環境ですが、地下に居住空間を設置することで火星レゴリスの持つ高い放射線遮蔽効率と熱容量を利用することができ、安全な空間を作成できるとするものです。アイディアが明瞭でプレゼンテーションの完成度も高いため、審査委員の強い支持を集めました。
近年の科学探査で得られた知見が背景にうまく取り入れられている点も、評価されました。たとえば中緯度帯の地下に氷が広く存在する可能性が指摘されていることから、その氷を放射線の遮蔽や採光に利用することを想定していたり、火星レゴリスの化学組成の特徴を生かし、自由な造形を可能にするコンクリートを作成することなどが提案されています。具体的な建設地点として中緯度帯のフレゲソン・カテナが挙げられていますが、この地域は数キロメートル程度の幅で直線状に凹んだ地形が広がっている場所ですから、確かに提案されている横穴式の構造を作るのに適した地形と言えるでしょう。ちなみにこの構造は、アルバ・パテラという巨大な火山地形の形成時に作られたものですが、関連して周囲に幾つもの丸い陥没地形も見られることから、実は地表からは見えない沢山の地下空洞が存在していると考えられます。そのため材料の採掘と住居用の空間確保とを同時に進める、という提示されたアイディアは、こうした天然の構造をうまく利用することで、効率よく実施できるかもしれません。
将来の都市建設まで視野に入れ、いくつもの構造に増殖する発展性も記載されています。こうした構造が必要とされる背景として、人類文明や地球生命DNAなど地球上の活動をアーカイブ化して火星に持ち込み、いわば地球のバックアップを作成するのだ、という主張も興味深く拝見しました。
入賞(5作品)
「火星の紋様」
山崎嵩拓、押木祐生、尾門あいり、長田大輝
(東京大学、都市環境研究所、積水ハウス、北海道大学)
講評:寺園 淳也
会津大学先端情報科学研究センター
人の死というものは、いくら科学が進んだとしても、少なくとも当面は向き合わなければならないものです。それは地球上であろうが火星の上であろうが同じかと思います。
人間が火星に向かい、やがては定住するというとき、この「死」というテーマはしばしば置き去りにされがちです。例えば、現在様々な苦難はありながらも計画が進められている火星移住計画「マーズ・ワン」では、火星に赴いた人間はそこで火星にある素材を使って一生を送ることになっています。つまり、いずれは火星の表面で死を迎えることとなります。マーズ・ワンの成否はともかく、多くの人間が火星に進出し、火星の上で一生終える人が出るという状況に対し、これまで具体的に切り込んだ哲学的・心理的、あるいは社会的な論調はあまりみかけませんでした。
今回の「火星の紋様」は、そのような、ある種タブー視されたテーマにもあえて切り込んでいったという観点で大いに評価できます。もちろん、この作品の考え方に抵抗を示す人もいるでしょう。例えば、遺体をも燃料として基地の維持に使うといった点は賛否両論あるかもしれません。しかし、そのようなサイクルをも織り込んだ建築計画は、ある種東洋の循環思想を想起させ、私たちにある種の説得力を持って迫ってきます。
さらに、雪の結晶をイメージした六角形の構造物も、命の重みとは何かという、地球上にいる人たちへの問いを投げかけているように思えます。
改めて、人間が宇宙へ進出するとはどのようなことなのかということを思想的に考える上で、非常に示唆に富む建築提案であるといえるでしょう。
「ハルモニア67.8°」
大野琢也、高山紘子、栗原玄太、山本惇也、松木洋、荒木一優、遠藤淑子
(鹿島建設、ソリッドデザインラボ)
講評:十亀 昭人
東海大学工学部建築学科
火星上で構造物を水平方向に回転させ、その遠心力と火星重力の合力で重力を生み出すという案です。かつて、月面重力を用いてこのような重力を発生させる提案を行ったことがありますが(第1回宇宙建築賞の募集要項写真参照)、この入選作品は水を用いているのが特徴といえます。現実的に運用はどのように行うのか、本当にこのような空間が生み出されるのか、実際のところは分からないのですが、もしこのような建築空間が火星上にできたらと想像するととても興味深いと感じました。ただ単に火星上で生き延びてゆくというだけでなく、一種のレジャーにも近い空間が生み出されていて、それはもしかしたら、サスティナブルに生命や文明を未来へと繋いでいくには、最低限の生命維持のテクノロジーと同じくらいに大切なものになるかもしれないとも思われました。個人的にはプレゼンテーションに違和感を覚えるところもありましたが、作品の個性とも理解できます。第1、2回の宇宙建築賞の入選作品を集録した「宇宙建築Ⅰ」の書籍の冒頭において、今後はひとつの時代を切り開いたHAKUTOに続くようなベンチャー企業が次々と生まれるのかもしれないと述べましたが、本応募メンバーが、鹿島建設のメンバーらによる作品である事も注目されます。今は所属職員の個人的なチームでの応募かと思いますが、本年、HAKUTOへの協力を打ち出した清水建設に対して、建設業界の次の一手にも期待をしたいところです。
「Cave as Architecture / Architecture as Cave」
照井渉平、河野雅輝、蝦名錬
(室蘭工業大学)
講評:竹内 宏俊
日本工業大学建築学科
今回の宇宙建築賞は火星の過酷な環境下に居住施設を建設するものです。どの作品も非常に意欲的な提案であり、技術的なアイディアだけでなく地球のアーカイブとしての役割や高齢者移住など、単なる居住施設にとどまらない宇宙建築のあり方を示唆していることに感銘を受けました。
「Cave as Architecture / Architecture as Cave」は、洞窟の中にアメーバ状の平面形のヴォイドを積層させることによって、建設当初は研究施設を形成し、それが徐々に拡張することによって、やがてそこに人々が移住し生活を営む巨大な地下都市になるというものです。積層という単純な手法ながら、アメーバ状のヴォイドが重なり合うことで大小様々な吹抜けが生まれ、入れ子状の複雑な空間を形成しています。火星の過酷な環境に対するシェルターの役割として地下に居住空間を設ける提案がいくつかあるなかで、他の案との大きな違いは、閉鎖的になりがちな居住モジュールに水平方向と垂直方向の広がりを生み出すことで、開放的な居住空間を確保しようと試みた点にありました。
このコンペにおいて、火星に人類が移住し生活を営むことができる建築や都市の建設が実現可能な段階に近いことを宇宙などの様々な専門家の方々から知ることができ、個人的にも大変有意義な審査でありました。
「FARMER -ヤサイヲツクルマチ-」
石松慎太郎、ワン、武永かなえ
(東海大学大学院1年、東京理科大学大学院1年)
講評:宮本 英昭
東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻
巨大な構造が空中を移動できるようにして、別の拠点作成に利用しようとするアイディアです。火星には氷の層が存在することが知られていますが、その上に建築物を作り、これを利用して野菜の栽培を行おうとするものです。生命維持に必要な酸素を水から取り、残った水素を巨大な膜構造の中に閉じ込め、さらに太陽光のエネルギーを利用して熱することで浮力を得て移動するのだそうです。これを次々と行うことで、高緯度帯における使いやすい氷層上に農地を拡大していこうとする野心的な利用法が提案されています。
これまでに人類が送り込んだ火星探査ローバは、十分な走破性能を持つと考えられていたものであっても、砂で止まってしまったり、車輪が損傷してしまったりなど、さまざまなトラブルがありました。こうした移動の困難さに加え、氷が露出している地域の多くが古い年代を持ち極めて凹凸に富む複雑な地形を持つことが知られているので、空中を長距離移動させたい、という思いは火星探査に携わる多くの人の共感を得るでしょう。
「Terrariums - n個の地球」
北岡佳奈、井上あい、西澤美咲,藤原悠
(京都府立大学)
講評:大貫 美鈴
スペースフロンティアファンデーション
「Terrariums - n個の地球」は、人間らしい暮らしを実現するというクオリティオブライフが目的とされています。そこでの生態系の繋がりが無限に拡大することで居住施設も拡大していきます。火星エコシステムができるタイムラインで発展してゆくストーリーがあり、初期のドーム建設からドームが拡大する成長期、複数のドームが結合していく壮大なプロセスを繰り返していきます。ドームそのものは火星地下の氷を活用した2重構造になっており、二酸化炭素の層により日光をドーム内にとどめることを狙っています。完全閉鎖系のドームが太陽のある外部と繋がりがあることが有効に働いています。この2重構造のドームが地中の氷を活用して作られると放射線遮蔽の効果も高くなります。氷のドームは放射線をカットしながら採光することが可能です。ただし複数のドームを直接結合することは難しいという課題も残されるでしょう。また、これだけの施設を維持するためには2重構造による二酸化炭素の層以外の風力、太陽光などのマルチプルにエネルギーを獲得するシステムがあることが望ましいかもしれません。内部デザインも丁寧に検討されており、火星においてもクオリティオブライフを追求した社会ができることが期待できる作品となっています。
優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。
作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。
今回は全体的に完成度が高い作品が多く、何かが違っていたら別の作品が入賞していたかもしれません。
最後に、第4回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、
そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。
この度は第4回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!