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第5回宇宙建築賞入賞作品発表

おかげさまで、第5回は非常にレベルの高い応募作品が集まりました!

​年々宇宙建築賞のレベルが上がってきていることが感じられます。


さて、そんな第5回宇宙建築賞で見事入賞を果たしたのは以下の作品です。

​今回の審査委員の方々の講評と併せてご覧ください。

 

​   ※各作品の詳細は作品一覧のページでご覧になれます。

第5回宇宙建築賞 講評

 第5回宇宙建築賞が開催され、とても素晴らしい作品の数々が受賞されたこと、おめでとうございます。今回は、月面における宇宙資源開発施設という課題で、まさに様々な宇宙機関も民間企業も取り組もうとしているテーマでした。

 

 まず、施設の設置場所を、マリウスヒルの縦孔や、極域のシャクルトンクレーターなど、これまでの多くの科学的知見を基に選定している点が、作品に説得力を与えています。その上で、未来の工業のあり方だったり、宇宙更生所だったり、宿り木であったり、とても斬新なアイディアが提案され、各々とても美しい作品に仕上がっていることに感銘を受けました。

 

 どの作品も、「資源」を、鉱物だけではなく、空間、立地、温度など、様々な観点から広く考えられていた点が素晴らしかったです。日頃、宇宙システムを検討するアプローチとは、また違う視点での魅力的なデザインに接し、これぞ、建築という視点の大切さ、特に大型の宇宙施設を考える際には様々な分野と連携することの大切さを、改めて実感した次第です。

 

 宇宙建築賞を継続して実施されてきた主催者や関係者の皆様に敬意を表します。また、応募下さったチームの皆様に感謝したいと思います。今回のご経験を今後に活かして下さると嬉しいです。そして、実際に月面に宇宙施設をつくることになる暁には、皆様のご知見が大きな貢献となることを期待しております。

宇宙飛行士 山崎直子様  

第5回宇宙建築賞 総評
 

今年は記念すべき第5回目の宇宙建築賞の開催となりました。今回も赤道域に近い縦孔での提案から月面の極域のシャクルトンクレーターまで、非常に幅広い提案性のある作品が揃ったと思います。応募者の皆さま、本賞の運営にご協力を頂いた方々に深く感謝申し上げます。

 今回は、応募数が少なかったため応募者の方々に事前に連絡を取り、皆さまのご了解が得られたため、初めての試みとして11月末の審査会にお越しいただき、審査員の方々の前でプレゼンテーションを行って頂きました。様々な講評を直接審査員の方から受けることとなり、例年にも増して有意義な審査会になったと思います。

 厳正なる審査の結果、最優秀作、優秀作、3つの入賞作を選ぶ事となりました。ご入賞された方々、誠におめでとうございました。皆さまの今後ますますのご活躍を祈念いたします。

宇宙建築コンテスト実行委員会  

最優秀賞(1作品)

© 2016 TNL

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「Industry 5.0」

小林稜平、朝日智、一色智仁、田中大河、古谷仁

(東北大学)

講評:寺薗淳也

会津大学先端情報科学研究センター

 現在世界では、「次の工業の形態」の模索が続いている。ドイツを筆頭としたIndustry 4.0は有名だが、ITを中心とする技術の加速度的進歩はそれさえも押し流そうとしているかのようである。

 そのような中で、Industry 5.0という刺激的な題名を掲げて登場した本作品は、まさに未来の工業の拠点を宇宙、そして月と定め、その成立過程を丹念に追いかけていくという、建築というよりは社会の成立性を示す物語的な要素が強い作品といえるであろう。もちろん物語とはいっても単なるSFではなく、月の縦穴、そして縦穴を中心として広がる地下空洞を舞台に、都市としての発展を追いかけていく作品である。

 昨年(2017年)、日本の月探査機「かぐや」のデータをもとに、月の地下に長さ数十kmにわたる巨大空洞が存在する可能性が高いことが発表されたが、本作品ではその知見をいち早く活かし、資源利用を核としたコロニー、さらには都市への発展という流れを、技術的な基盤をしっかりと踏まえながら描写している。

 作品全体が非常に緻密に作られており、上記の通りの最新科学の知見を取り入れているだけではなく、資源の利用方法や都市への発展機序などがしっかりと記述されており、作品全体が大きなリアリティをもって迫ってくる。また、資源利用についても、単にそこにある資源を利用するというだけではなく、その抽出方法、さらにはそのためのエネルギーなどについての言及もしっかりとなされており、作者が非常に膨大かつ広範囲にわたるリサーチを行ったことが示されているようである。

 個人的には、地上部分を(一時的とはいえ)都市として利用する際のリスク判断や、スターリングエンジンの利用などについて若干の疑問が残るところではあったが、作品全体の構成とリアリティは、そのような点を補って十分に余りあるものである。今後、月に関する新たな知見が得られるたびに、この構想をアップデートし、Industry 5.01、5.02、…5.1、…と発展していくことを期待したい。

優秀賞(1作品) 

講評:大貫美鈴 

​スペースフロンティアファンデーション / (株)スペースアクセス 代表取締役

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「NEOSTRALIA」
 
義野えいか、行木晴香、豊田祥子
(武庫川女子大学)

 ネオストラリア(NEOSTRALIA)は、月の南極付近にある直径約2500kmともいわれる太陽系内でも最大級の巨大なエイトケン盆地の縁に位置するシャクルトンクレーター近くの溶岩洞を敷地とした壮大な月資源開発施設、シャクルトン宇宙更生所である。

 縦孔や洞窟を活用して作られる螺旋状の施設が建築的に美しい。しかしながらまず目に留まったのは受刑者が働く場所であるというコンセプトであり、刑務として業務にあたり、社会復帰や職業訓練の役割も果たすという。月面が流刑の地であり再出発の場とは、ショックを受けた。これまで宇宙に行く人は選抜された宇宙飛行士や経済力がある宇宙旅行者であった。月面開発の時代になっても仕事として月資源開発施設に行くのは技術やスキルを保有する選抜される人というイメージがあるが、それを根底から覆す強烈なアイディアである。地球上の犯罪者を収容する施設が不足することにも対応するとしている。なるほど、宇宙開発は地球の課題解決のためにあるという使命にかなっており、これも宇宙利用であると言えるのだろう。

 施設がある規模以上になるとモビリティが機能を左右するほど重要な要素であるが、1000人から始まった第1期開発調査団から現在の10万人の居住をハイパーループがネットワークして支えるグランドデザインになっている。螺旋状の施設は受刑者の居住施設とはいえミニマムな機能にとどまらず共有スペースや運動用セルなど長期滞在を快適に送る要素も取り入れられ、農業、植樹など目的に応じて随所が工夫されている。月ソイルの利用、太陽発電所の設置、植物を育てる有機循環についても検討されている。

 第5回宇宙建築賞の応募作品は、どれも新しい発想や視点が盛り込まれた物語性のあるもので印象が強かった。とりわけこの作品は、月面資源施設における労働の考え方を提起することで強烈なインパクトを放っていた。

入賞(3作品) 

 

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「Dream Continuation -Adventure of Shackleton-」
 
萩原祐貴、市原幸祐、西将志
(東海大学)

講評:石川洋二

(株)大林組 技術研究所 

 本作品は、極域に近いシャクルトンクレーターの内部に居住地を作ろうという構想である。その着眼点の秀逸さは、従来いわれていた月利用法の固定観念を離れて、シャクルトンクレーターの特色を余すところなく生かした水資源の輸送、温度差による固液相の転換、各構造物の上下層の配置、日本人になじみ深い温泉を利用した生活アメニティなどにあろう。また、この作品では、本賞公募の課題である資源としては、シャクルトンクレーターという固有の地形資源を大きなくくりとして、内包する水(氷)、太陽光、熱、高低差、永久陰、鉱物などの個別資源を巧みに取り込むことで、課題に見事にこたえている。なかでも、温度差、日照/日陰が場所ごとにダイナミックに変化するクレーター斜面を利用して、氷と水の固液相の転換を図りながら水資源を循環利用するというアイデアは特に目を見張らされるものである。その実用的価値の有用性、独創性とともに、本構想に永続的な動きを加えることで、人間が住むというダイナミズムに生き生きとした力を与えている。審査員からコメントがあったように、クレーター斜面は上部に行くほど急峻になることなど、さらに詳細を考慮していけば、本構想はさらに現実感を帯び、住んでみたいという気持ちを一層喚起することだろう。地球を眺めながらなまめかしく横たわる女性と立ち尽くす男性を配した想像図は、この居住地での快適な生活の一端をかいま見せてほほえましいものがある。さて、昨今なにごとにもストーリーが求められるが、本作品では、地球で果たせなかった夢を月面で果たすというシャクルトンの希望が骨太なストーリーとして基底をなしており、題目Dream Continuationもまさにこのストーリーにふさわしいものとなっている。本構想製作者諸君もぜひ末永く夢を見続けてほしい。

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「宿り木」
上島尭史、打田彩季枝、桑山祥太郎
(愛知工業大学)

講評:十亀昭人

​東海大学工学部建築学科

 月面のマリウスヒルの縦孔における計画案である。地上における結露はどちらかというと厄介なものとして扱われることが多いが、こと月面においては空気中の水分を集め液体へと戻す貴重な水資源の循環システムのひとつと捕らえることもできる。この点に注目した入賞者のアイデアは興味深い。中央部に配した大木が月面のマリウスヒルの縦孔の象徴として永続的に生命を育み、地球から移り住んだ人類と共生をしていく時代が待ち遠しい限りである。

 一方、上部の木造のドーム状の構造物については、例えば本年(2018年)に福岡で行われた宇宙科学技術連合講演会などでも類するドーム状の形態が見られたが、やはり縦孔に大気を留めるというアイデアであれば逆方向のアーチ、つまり、下方に凸になる形態の方が構造的には有利であろう。月面という低重力で大空間を覆う場合、圧倒的にその建築物の重量よりも内外の圧力差に影響されることが大きいとも考えられる。かつて地上において、R.バックミンスターフラーは「"圧縮材のドーム"に対する引っ張り材の可能性」を示したが、月面においてはまだ我々の知らない新たな構造形態が存在するのかもしれない。

 また、ここでの構造物に木材を用いているところも注目される。京都大学では宇宙で木材を利用するための研究が進められていると聞くが、近い将来、我々の想像もつかない材料が生まれてくるのであろう。

 地上の建築学の多様な分野の知見、人材が、宇宙建築学においても必要とされていることを強く感じた作品である。

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「ATLAPOLICE」
 
藤岡凌司、村上勝也、河野想大、本田悠樹
(千葉大学、東京工業大学)

講評:高橋鷹山

株式会社OUTSENSE 代表取締役

 ATLAPOLICEは、今回の応募があった作品の中で、もっとも建築的な要素が強い作品であった。宇宙での特性を踏まえた提案もいくつか見られ、実現可能性を感じるコンセプトのように見受けられた。

 ここでは、月の縦孔にある空間全体をひとつの資源と考え、その空間を守りながら洞窟内の開発を進めることが永続的な資源開発につながると定義されている。月面は、放射線が降り注ぎ、大きな温度変化があり、隕石の衝突も考えられる。加えて、大気は無く真空で、表面にはザラザラとしたガラス片のような砂が堆積している。これらのことを考えると、縦孔内部は、月面のそれ以外の場所と大きく異なり、人間が資源開発などの活動を行っていくために利用できる非常に貴重な空間的な資源であるといえるだろう。

 次に注目すべきは、施工方法のパターン化と画一性を脱するスラブの利用である。人間にとって制約の多い月環境の中では、あまり多くの物を生み出すことはできない。そのためこの作品では、大きく4つの機能の組み合わせにより都市を新たな枠組みで捕らえようと試みている。この作品ではこれらのことを通して、空間に動きを持たせ、新たな空間を創出させようとしていることは特筆できる点といえる。

 最後に、この縦孔における人の日常の生活や資源開発の具体的な様子についても見てみたいと思われた。将来、この縦孔自体を資源として、人の生活が営まれ、その貴重な資源を守り育てていく時代がくることが望まれる。

優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。

作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。

今回は非常に完成度が高いだけでなく、独創性にあふれた作品がとても多いように感じました。

今回の宇宙建築賞が今後の宇宙建築の新たな着想につながることを願っております。


最後に、第5回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、

そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。

この度は第5回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

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