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第3回宇宙建築賞入賞作品発表

おかげさまで、第三回の応募作品は21作品にのぼりました!

チームでの参加が義務付けられていたものの、これだけの作品数が集まったのは、

宇宙建築の認知度が上がっている証拠と言えるのではないでしょうか!!!

さて、そんな第三回宇宙建築賞で見事入賞を果たしたのは以下の作品です。

​今回の審査委員の方々の講評と併せてご覧ください。

 

​   ※各作品の詳細は作品一覧のページでご覧になれます。

   ※作品公募の際に記載していた「第二課題賞」の該当作品は審査の結果該当なしとなりました。

   ※後日、山崎直子宇宙飛行士からコメントが寄せられる予定です。記載時期は弊団体FBにてお知らせいたします。

第3回宇宙建築賞 総評
 

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これまで三回にわたり、宇宙建築賞が継続して開催されたこと、関係者の皆様、応募くださった皆様に深く感謝申し上げたいと思います。

 第三回目のテーマは、UZUMARCH。UZUMEプロジェクトにより「近年新たに見つかった月面の洞窟に、初めて居住することとなる移住者、計10世帯分の月面施設を設計」するというテーマのもと、月の環境を考慮し、かつ従来の発想にとらわれない壮大な美しい設計が数々寄せられたことに、深い感銘を受けました。月は、古代から「かぐや姫」にも見られるように、親しみをもって愛でてきた対象であることを痛感しました。

 

 最優秀賞を受賞された「LUNA’S ARK」は、洞窟を月の水で満たし、その中に人だけでなく、植物や動物も含めた生態系をつくるという壮大な構想で、月ならではの設計です。他の作品も、月の環境と共存していくことに重きをおいている点がとても印象に残りました。

 なお、2015年にNASA主催で実施された火星居住施設設計コンペで最優秀賞を受賞したのは日本人中心のチームでした。また、国際宇宙ステーション(ISS)は、現存する最大の宇宙建造物であり、15カ国の共同プロジェクトで、すでに入れ替わり交代しながら約17年間、人が滞在し続けています。いつの日か、宇宙に人が実際に移住する時代も来るでしょう。その暁には、この宇宙建築賞の知見が、国際プロジェクトの中でリードすることに貢献することでしょう。宇宙建築の実現を期待し、応援しております。

 

宇宙飛行士 山崎直子 様 より

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最優秀賞(1作品)

© 2016 TNL

「LUNA'S ARK」

坂本陽太郎、竹村健司、四宮駿介、温興文、Patcha Pornpragit

(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻千葉学研究室)

講評:岩岡 竜夫

建築家/東京理科大学理工学部建築学科教授/審査委員長

 今回の宇宙建築賞コンペのテーマは、UZUMARCH、すなわちUZUMEプロジェクトによって発見された月面洞窟を利用して居住施設を建設(Architecture)することである。大学生チームやプロフェッショナルなグループなどからそれぞれ魅力的な提案が寄せられた。

 最優秀作品に選ばれた<LUNA’S ARK>は、月に存在する氷を溶かした水で洞窟内全体を充填して、その水深62mの地点に洞窟内壁に固定された2枚の空気膜によって1気圧の空気層を確保し、そこで人々が自給自足的な集団生活を営むというものである。ひっくり返した風呂桶を湯船に沈めたような、満たされた水の中に空気層(方舟)をつくるという大胆な発想の中で、その根拠となる論理的展開や方舟内のディテールなどが巧妙に考案されており、牧歌的で美しい図面表現と相まって多くの審査員の方々を驚嘆させた。この案の他の案との決定的な違いは、過酷な自然環境条件の下で、水平的な広がりをもつ空間を(洞窟と水による)二重の入れ子構造によって確保しようと試みていることであり、人間にとって開放的な生活環境の豊かさと大切さを改めて示す作品であった。

 今回のコンペの審査や宇宙専門家の人々との交流を通じて、月面という我々の日常から遠く離れた抽象的な世界の中に、具体的な場所性やスケールが存在し、その地形や方位を生かした建築的あるいは都市的な計画がすでに実現可能なところまで来ていることに、審査員の一人として深く感銘を受けた。

入賞(5作品) 
「PEACE PLANET project」
 
中島真理、新井真由美、村川恭介、スティーブ・ヒル、鈴木理之
(株式会社テクニカル リンクス デザイン)

講評:春山 純一

​宇宙航空研究開発機構(JAXA)

 今回、初めて審査をさせていただけましたが、応募作品の素晴らしいポスターの出来映えに、感動いたしました。中でもこの作品は、審査員の過半数以上の支持を集めるものでした。

 「人類の未来にとって有益な」という設定テーマについてはいくつかのアプローチがあると思いますが、本作品は「世界平和を論じる」という設定が明確になされていました。そこに、今回のテーマをしっかり理解しているという評価をさせていただきました。

 また、随所に設備としての必要十分性を感じさせる構想で、有る意味「月居住設備としての構想は非の打ち所が無い」という評価を多くの審査員の方々がされたのも、私としても頷けることでした。たとえば、

   ・世界平和を論じ、その様子を各国へネット中継されるという大局的な目的

   ・螺旋スライダーというアトラクションや天井から地球を見るというリラクゼーション設備という人間的な要素

   ・二つの居住区を持ち、バックアップとして備えるという設備としての堅実性

一つ一つの要素を丹念に検討されたであろうと感じたのは私だけで無かったかと思います。絵としての完成度も高く、非常に素晴らしい「プロチーム?」の検討結果だと思われました。

 一方で、この作品が最優秀に選ばれなかった理由も、審査委員の中で実は多くが一致していたようです。それは、多分「建築」として最も重要な要素であるであろう「住みたいと思わせられるか」というところにアピールポイントが無い、と感じられた事でした。

 月に将来住む事が、縦孔の発見で見えてきており、この作品の応募チームは、非常に現実的な解を、様々な角度からの検討を行って、この作品を完璧に仕上げようとしたのだと思われました。その意味では、この作品は「設備」としての完成度が高いのだと思います。

 しかし、私は素人ですが、素人だからこそ、建築作品を「作る側」ではなく「依頼する側」としての目としては、「こういう設備だと、あまり行きたくないな」でした。もちろん、応募者が居住者に寄り添って、地球を見られるとか、スライダー設備というのを挙げいるのは分かりました。しかし、それでは、正直「それほど住みたくないな」と、つい思ってしまったのです。他の審査員の方々の中にも同種の感情を持たれた方が少なからずいたようです。

 やはり、「建築」とは、「そこに住みたい」と思わせてくれるものであって欲しいというのが、あるのかと思います。つまり、「夢」が欲しい、と思うのです。建築家というのは、依頼主(それはもしかしたら建築家自身のものかもしれませんが)の住処に対する「夢」を具現化し、時として夢を現実のものとする過程で現れる多くの制約を、一つ一つ解決し、最後には依頼主の表には現れない意識下にあった夢さえも引き出し、叶えてくれるプロフェッショナルであって欲しいと思うのです。そして、そのプロによる作品こそが「建築」の名に値するものなのではないかと思うのです。

 繰り返しになりますが、確かに月での居住設備構築は制約が多いでしょう。あり得ない構造物を提案するだけだったら、小中学生、むしろ幼稚園児にでもできる、と思うかもしれません。しかし、建築家が建築家たるゆえんは、先にも述べたように、依頼者の夢を形にする才能だと思うのです。この作品にはもしかしたら、「世界平和実現」という夢があったのかな、とも思います。もしそうであれば、それを軸にしたユニークさを形にし、その現実性を、様々な建築の専門的観点から検討されていれば、間違いなく、優秀賞として選ばれたのでは無いかと思います。

 この作品提案チームならば、今度は、夢の要素をふんだんに取り入れての感動にあふれる、しかし現実に確実に築きあげられるという作品を世に出して下されると信じて疑いません。

 

「天上の竹」
 
河部卓也、峯村颯、西崎晃平
(日本大学大学院)

講評:寺園 淳也

​会津大学先端情報科学研究センター

 月といえば、日本人がまずまっさきに思い浮かべるのは「かぐや姫」の物語であろう。竹から生まれた小さな女の子がやがて成長し、美しい娘となる。求婚の誘いを断り、ある日月に帰っていく。…いまから1000年も前に、このようなプロットの物語を作ることができた日本人の月への感性というのは、私たちはもっと大事にすべきなのではないだろうか。

 さて、そのように月と縁が深い「竹」をモチーフにして、23世紀における人類の暮らし方を提案している作品が「天上の竹」である。その竹が生えている月面は、月に戻った姫の名前を関した日本の月探査機「かぐや」が発見した月面の縦穴に「生えて」いる。

 今回の審査で私が重要視したのは、建築物としての実現性や月面の環境といった要素もさることながら、「ストーリー性」である。その建築物がなぜそこにあり、どのような理由でそのような形になったのかを説明することは、将来人間が月面にどのように住むかどうかという人類の夢をかき立てるために最も必要なことだと考えたからである。

 その点、この「天上の竹」は、今回の宇宙建築賞に与えられたストーリーを見事に読み込み、具現化している。章立てされたストーリーは人々に月面と地球とのつながりを印象づけやすく、幅広い想像を働かせてくれるものである。

 そして、モチーフとなっている「竹」が林立する姿は、おそらく月面においても美しい姿として人々に記憶されることになるだろう。月という誰のものでもない土地である以上、世界的な物語であるべきという意見もあるだろうが、ここは日本人が培ってきた、そして世界に誇れる「竹とかぐや」というつながりを、月の縦穴という最新科学の発見でふくらませていくという発想に共感したい。

 もちろん、建築としてはもう少し細かく見るべき部分もあると思われるし、実際の縦穴においてこのようなデザインがとれるかどうかという実現性の点では他のアイディアの方が優れている場合もあるかとは思う。ただ、私の視点として「将来につなげていくべき視野の拡がり」ということを重視するのであれば、「天上の竹」は、多くの人に深いインスピレーションを与え、未来の月の世界に深く思いを馳せることができる作品、そしてアイディアに仕上がっている。今後実現性などのフレーバーを増やしていくことで、その物語をより深く進めていけるよう、作者の皆さんのより一層の活躍を期待したい。

「Moon Cavern  CELL' 92」
鈴木晶雄、岡崎雄、佐藤大海
(東海大学工学研究科建築土木工学専攻)

講評:大貫 美鈴

スペースフロンティアファンデーション ​アジアリエゾン代表

 宇宙で“吊る”いう発想にハッとした。軌道における建築では無重力のため不可能であり、重力天体の洞窟だからこそできる。そうだった。洞窟だから“天井”がある。宇宙に大空間を創ることは難しいけど、月面洞窟には大空間が地形としてある。Moon Cavern CELL ‘92はまさに、月面環境と月面洞窟の大空間と天井を活かした斬新でユニークな宇宙施設なのである。

 ルービックキューブのようにモジュールを自在に組み合わせ、家族単位の生活、レストランやジムなどのパブリックゾーン、生産活動を行う工場や農場などの大空間まで月面でのあらゆる活動シーンに能動的に対応できる。モジュールのモビリティは、天井から吊られているワイヤと6分の1という重力を有効活用して実現している。Moon Cavern CELL ‘92では病院や体育館などの生活シーンが提案されており、家族やコミュニティなど人の息遣いが感じられ、実際の生活を垣間見ているようで想像力がかきたてられる。

 もちろんモジュール単位なので段階的に拡張性することが可能で、プライバシーを確保しつつ構造物の拡大が期待できる。現地資源活用ISRU(In-Situ Resource Utilization)で月のレゴリスを利用して3Dプリンティングでモジュールを作れば、マス・マニファクチャにも対応できるであろう。

 月面洞窟は宇宙放射線遮蔽効果、温度安定、堅牢で広大な空間など、いくつもの有人施設建設に適した特徴があり、底は平なのでローバーを使った探査に適した場所であるという。洞窟外から太陽光や景観を取り込むなど、洞窟外とのコネクションがとれる機能、また、各モジュール群間の人の移動についても検討が進むことを期待したい。

 洞窟居住というとトルコのカッパドキアやイタリアのマテーラなどが思い浮かぶが、人類は太古の昔から洞窟を住みかとし、現代においても特殊な地形を生かして洞窟に居住している地域がある。また、洞窟は壁画などにみられるように多くの文化も生んできたが、月面洞窟においても地球の郷愁を感じたり、新たな月面文化ができるように思える。

 Moon Cavern CELL ‘92は建築模型とグラフィックスのコンビネーションが印象的な作品である。今回の課題UZUMARCH(ウズマーキ)とは、月面の洞窟探査計画であるUZUMEプロジェクトとArchitectureを合わせた造語であるというが、月面の静謐な雰囲気がありながらも、このUZUMARCHから感じられる楽しい音すらもが洞窟から聞こえるような、無機質な月面が有機的に感じられるアイディアが丁寧にもりこまれている。想定されている2092年は、国際宇宙年の1992年からちょうど100年後。こんなワクワク感いっぱいの人類の活動拠点が月の洞窟に拓けるよう、今後の継続的な研究を楽しみにしたい。

「月の華」
 
澁谷翔、菅野智之、菅原祐也
(東北学院大学大学院工学研究科環境建設工学専攻)

講評:佐々島 暁

日本防災研究所

 この作品が評価された項目の一つは、しっかりとした技術的な検討に基づいた計画が作品に具体的に反映されていたという点です。特に、レゴリスを採取、処理する過程を想定した施設計画は、具体的な作業工程を想定しながら上手くまとめられており、高く評価できます。また、本課題のテーマである「月面都市移住民の第1ステージの開拓者に必要な設備を満たす」という点に関してもよく検討されており、課題テーマの近未来の時代設定にマッチしていると評価されました。移民生活の初めに必要なものが、レゴリスの処理プラントであると判断した点は大変良い判断だと言えます。

 課題テーマの月面洞窟の利用について、施設計画の形態を竪穴形状を活かした“花”の形に展開されていた点もデザイン性に優れた計画と評価されました。現状の宇宙施設は、建築家ではなくエンジニアが設計することが多く、構造的には優れているものの、デザインはあまり重視されないことが通例となっています。しかしながら、この案では環境条件を整理し、デザインに昇華させていた点が建築家らしく、本コンペの主旨にもあっていると思われました。

 一方で、1/6Gという月面特有の重力環境における、施設計画・利用アイデアの提案がもう少しあれば更に良い作品になったとも思われました。今回の条件設定における月面の施設計画において、最も特徴的な点が地上や宇宙空間とは異なる重力環境です。1/6Gという条件がいかに人間の生活に影響を及ぼすかを想定した空間計画が提案されていれば、なお良くなったと思います。

 また、今回の課題条件には“10世帯の家族”ということが指定されています。この10世帯がそれぞれどのような生活を営み、10世帯の家族がどのようなコミュニティーを形成しているのかを各世帯ごとに想像し、施設計画の提案に反映できていると、よりイメージし易い計画になっていたと思います。

 最後に記載した2つの指摘は、他の作品にも共通で言えることでもありますが、今後、宇宙の施設を設計するうえで、このような点を考慮して頂ければ、更なるユニークな設計アイデアが生まれてくるのではないかと期待しております。

「宇宙銀座商店街」
 
小林寧々、富田夏乃子、湯口真代
(東京理科大学工学部建築学科)

講評:佐藤 実

東海大学清水教養教育センター

 月の重力は地球の6分の1,ということはよく知られています。しかし,実際に月に立ったことがあるのは,すべての人類のうち,たった12人しかいません。では,実際に月まで行かなければ地球の6分の1の重力でどのようなことが起きるのかがわからないか,というと,そんなことはありません。私たちには科学と想像力があります.正しい知識と豊かなイマジネーションがあれば,あたかもその場にいるかのごとく,月面での様子を描きだすことができます。

 「宇宙銀座商店街」の想像画に描かれている人たちは,片手で軽々と体を支え,さして力を入れている風ではなく子供を抱き,ゆったりと縄跳びを楽しんでいます。地球上では考えられないくらい高低差のあるフロアからフロアへ,飛び跳ねながら行き来する様子が,目に浮かぶようです。この絵を描いた方は月面にいたのではないか,と思えるほどです。

 さらに,この商店街に住む人たちを想定しているのも,楽しいところです。そこに暮らす人を具体的に思い描くと,建築が生きてきます。人々が安全に,快適に生活できる器を考えることは,建築の面白さのひとつではないでしょうか。過酷な宇宙空間や月面での建築となれば,なおさらです。「宇宙銀座商店街」に描かれている人たちがどんな物語を生きているのか,想像するとワクワクしてきます。

TELSTAR賞(一般審査) 
「海月‐KURAGE‐」
岡本俊英、佐野航、大澤真生子
(東京理科大学理工学部建築学科)

※この賞は 宇宙フリーマガジン「TELSTAR」において行われた一般の方々によるWeb投票の中で投票数が一番多かった作品に対して​与えられる賞です。(以下結果詳細)

投票率(上位三作品):1位「海月‐KURAGE‐」(35.3%) 2位「月の華」(29.4%) 3位「LUNA'S ARK」(26.5%) 

優秀賞に選ばれた作品と審査員の方々の講評はいかがだったでしょうか。

作品はどれも見た目の良さだけでなくその内容もしっかり作りこまれていると思います。

今回は全体的に完成度が高い作品が多く、何かが違っていたら別の作品が入賞していたかもしれません。

​その証拠に、入賞作品が例年より多く、審査委員の方々の苦悩が伺い知れます(笑)


最後に、第三回宇宙建築賞に応募していただいたみなさま、審査会にお越しいただいたみなさま、

そして審査員の方々、関係者各位にお礼の言葉を述べさせていただきます。

この度は第三回宇宙建築賞にお力添え頂き、本当にありがとうございました!

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